- 第15回本フェチ大賞 アイディア賞「先生、俺をころしてください」調子様[おいしいバター]
アイディア賞
「先生、俺をころしてください」
調子様[おいしいバター]
仕様
Interview
今回のご本が生まれたきっかけは何でしょうか?
FGO(Fate/Grand Order)の「幕末チャンバラ神話 ぐだぐだ新選組・ジ・エンド REVENGE OF MAKOTO」というイベントで、これまでのパブリックイメージとは異なる近藤勇が登場し、強い衝撃を受けました。
また、シナリオ内で登場する勝海舟(先生)が近藤勇に「どんな結末になろうと、近藤くんに力を貸す」と言うシーンがあります。このセリフが心に残っていて、「なぜ勝海舟はそこまで近藤に味方するのだろう?」と考えていました。
作中の生前シーンでは勝海舟は近藤勇に助命交渉を試みますが、近藤は「誠を貫きたい」と拒否し、処刑されます。このとき勝は近藤のことをどのように感じたのか。”誠”とは一体何なのか。
その後、新選組副長である土方歳三に助命嘆願された時、シナリオ内では強い態度で退けますが、内心どうであったか。
色々と考察したものを形にしたくて、この本を作りました。装丁の仕掛けも、「読者に勝海舟の負い目を追体験してほしい」という想いから生まれたものです。
使用された紙・加工と、特にこだわりを持った部分があれば教えてください。
【装丁のテーマ】
テーマは「読者が近藤勇の首を斬る」体験をしてもらうことです。
表紙イラストの首の位置に帯を配置。帯は糊付けされており、そのままだと本を開くことができません。
帯に入っているミシン目を破ることで近藤の「処刑」を追体験し、下に隠れていた土方の必死の嘆願が現れる。それはもう取り返しのつかない──帯を破り、近藤を斬ってしまった後にしか読めない言葉です。
読者自身が手を動かすことで、勝先生とリンクした負い目や葛藤を感じてもらいたいと考えました。
また、破った帯は元には戻せません。そのことが過去を変えることができない英霊(サーヴァント)であることとリンクすればいいなと思いながら作成していました。
帯を破った部分からは、鮮血をイメージした赤ベタに白抜きで土方のセリフが浮かび上がるようにしました。
【表紙について】
ざらつきのある用紙の方が今回の話に合うと思い、担当さまに相談させていただきました。最終的にカラーセットの基本用紙にあるサーブル スノーホワイト 160kgを使用しております。
紙独特の縦ラインが着物の縮緬のように感じられ、雰囲気に合っていたと思います。
【本文について】
本文はコミックルンバホワイト 84kgを使用しました。
漫画の読みやすさを重視して選びました。こちらもカラーセットの基本用紙を使用させていただいております。
【製本・その他】
帯は緑陽社様にカスタムでミシン目を2本入れていただきました。
過去の本フェチ大賞で、表紙にミシン目を入れてらっしゃる作例を拝見して、緑陽社様ならやりたい仕様ができるかもと思い問い合わせさせていただきました。
1本目のミシン目は帯上端から1cm、2本目は帯上端から2cm(1本目から1cm間隔)の位置です。この2本のミシン目を破ることで、近藤の「首を斬る」動作を表現しています。
帯の用紙はタントN-8(オフホワイト)130kg、印刷はフルカラーです。表紙と帯で絵が続くデザインにしています。
手作業で折り・糊付けをするのですが、糊付けしやすい用紙を担当さまが選抜してくださいました。表紙用紙ともうまいことマッチしており、大変感謝いたします。
ミシン目の位置や帯の高さは、表紙イラストとの兼ね合いもあり、何度も調整しました。
破りやすさと、破った後のセリフが美しく見える配置のバランスを追求した結果です。
今回のご本はどのようなスケジュールで進められましたか?
2025年12月頃にプロットを固め、2026年1月初めに最初の問い合わせをお送りしました。
当初「表紙自体にミシン目を入れる」案も検討し、確認もしていただきましたが、コストの問題・破った後の本の状態・意図したことが本当に表現できているか?などを考慮し現在の状態になりました。
相談したところ快くカスタム対応していただけることになり、1月中旬に見積依頼をしました。確認の最中に別の本も同時進行していたため、原稿には1月下旬ごろから取り掛かりました。
緑陽社様とのやり取りや装丁の調整に時間をかけたため、原稿自体は比較的タイトなスケジュールでしたが、装丁の完成度を優先して進めました。早割を使用できたので予定よりはコストを抑えられて良かったかなと思います。
会場初回頒布の1週間ほど前に自宅納品→猛スピードで帯を切って折っては貼り、切って折っては貼りしていました。なかなかいいキツさに巻けなくて挫折しそうでしたが、余部をたくさん付けてくださってたのでなんとかなりました(笑)
今回のご本のような装丁で同人誌を作ってみたい!とお考えの方に向けてメッセージをお願いします。
「やってみたい」と思ったら、まず印刷所様に相談してみることをおすすめします。
私も最初は「本当にできるのかな?」と不安でしたが、丁寧にご対応いただき実現できました。印刷所様は技術的なアドバイスもくださるので、「無理かも……」と諦める前に、ぜひ相談してみてください。
また、今回は”何を体験してほしいか”を軸に考えたため、アイデアが固まりやすかったです。
もし同じ仕様で作成されたい方がいらっしゃるなら……自分の描いた絵の一部を破棄することになりますので、迷いは捨ててください。あと手作業が大変なので頑張ってください。
WEBで掲載せずわざわざ本にするからには、本だからこそできること、やりたいことを想像するワクワク感を、ぜひ多くの方に味わっていただきたいです。
最後にひとことお願いします!
この度は「本フェチ大賞」アイディア賞をいただき、誠にありがとうございます。
毎年とても楽しみに拝見しておりましたので、自分の作成した同人誌が掲載されることを心より嬉しく思っております。
緑陽社様、ご担当さまには真摯に対応していただき、感謝の気持ちでいっぱいです。
そして、この本を手に取ってくださった方が、仕掛けを通じて「先生」たちの葛藤や想いを感じていただけていたなら幸いです。
ありがとうございました!
Staff Comment
ミシン目加工は、自分の手で商品のパッケージを開封するわくわくが楽しめる加工ですが、まさかキャラクターの首を切り取ることに活かされるとはついぞ思いもしませんでした!「キャラクターの首を『切る』ような意匠を施したい」
そんなアイディアが結実したセンセーショナルな作品です。完成した冊子を開いたスタッフ自身も、ミシン目から徐々に現れる鮮烈な台詞にドキッとさせられました。
冊子表紙自体にミシン目を入れることも製造上可能でしたが、ミシン目を入れた帯を執筆者様のお手元で1冊1冊糊付けしており、ミシン目を開きたくない読者はスリーブとして外せる構造にすることで、冊子自体の保存性も担保しています。
読者自身に手を汚させ、キャラクターの訴えをダイレクトに伝える唯一無二のイントロダクション、表紙をめくる手が止められなくなるアイディアの光る作品です。
▼ 第15回 受賞作品 ▼










