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準大賞
「星彩の輪舞」
あめふらし様[夏眠水槽]
【カバー】 | 用紙:OKムーンカラー ホワイト F-120/印刷:4色フルカラー |
加工:高精細箔押し(ホログラム箔オーロラ)、空押し(加熱型押し) | |
【表紙】 | 用紙:スタードリーム-FS ルビー209kg |
印刷:1色刷り(スミ)/加工:高精細箔押し(金) | |
【遊び紙】 | 用紙:スタードリーム-FSチタン 88kg 前後各2枚 |
【扉】 | 用紙:クロマティコA-FS レッド |
加工:箔押し(金) | |
【本文】 | 用紙:クリーム書籍用紙 72.5kg/印刷:スミ刷り |
【製本】 | 無線とじ |
Interview
あめふらし様、今回のご本が生まれたきっかけは何でしょうか?
大好きな作品の、大好きなキャラクターの二次創作小説を書かれる作家の方々と、幸運にも巡り合う機会に恵まれました。
こんな素敵な方々に出会える機会はもうきっと二度とない!皆様の小説を何とかして紙の本でも拝読したい、ずっと手元に置きたい…!!と想いを募らせて(こじらせて)いたところ、SNSの相互フォロワー様がWebオンリーイベントを企画されており、本をつくるなら今しかない!と思い立って小説アンソロジーの企画に踏み切りました。
アンソロジーの企画は初めてでしたが、Webオンリーの主催者様がアンソロジー制作の大先輩でもあり、多くの助言をいただいて制作に漕ぎ着けることができました。
使用された紙・加工と、特にこだわりを持った部分があれば教えてください。
【装丁のテーマ】
アンソロジーのテーマとしたカップリングの概念を自分なりに詰め込みました。キャラクターのモチーフが宝石なので、箔押しのキラキラ感は外せないなと当初から考えていました。また、小説アンソロジーということで硬派(!)な文芸書風にしたいと思い、あえてイラストを使わず、紙の質感や加工でキャラクターの概念を醸し出すことを目標にデザインを考えました。
【表紙について】
ブックカバーは物語に登場する月の世界をイメージして作りました。用紙はOKムーンカラー ホワイトを選択。
月の世界のふわふわした輪郭の曖昧な雰囲気の表現として、飾り枠を空押しで入れました。4c印刷のグラデーションは、どんな感じになるかな…?と納品されるまでそわそわしていたのですが、イメージ通りに綺麗に入れていただき感動しました。
タイトルと蓮の花の図案のホログラム箔(オーロラ)は、月に住まう人々が纏う遊色の光をイメージしています。蓮の花もキャラクターのイメージに因んだものです。
カバー背面には、部数限定で蓮の花の図案のレーザーカットを追加しました。本はカバーを掛けない状態で納品していただき、カバーのみ自分でレンタルスペースに持ち込んで、レーザーカッターで加工しています。
初チャレンジでしたが、穴が空いていることが物語の重要なキーワードでもあるので、どうしてもやってみたくなってしまいました…。
本体表紙のデザインはブックカバーとのコントラストを意識しました。宝石や鉱物をモチーフとしたキャラクターがメインテーマなので、それらに因んだ(こじつけた?)紙や加工方法を模索しました。キャラクターたちが抱えた情念のようなものが、少しでも表現できていたらいいなと思います。
表紙のスタードリーム-FS ルビーは、コランダム属の宝石の名前を冠した赤い紙!ということで選びました。繊細な光沢に高級感がありとても気に入っています。
金の箔押しはルチルの針状結晶をイメージして入れました。断ち切りにかかる箔押しは技術的にかなり気を遣うものだとお聞きしましたが、ご担当者様がこだわりを受け止めてご対応くださり、感謝しています。
【本文について】
本文用紙は定番のクリーム書籍用紙を使用しました。紙にハリとコシがあり、心地よく読める本になったと思います。
小説本は読みやすさが最も大切だと思うので、本文のレイアウトは表紙のデザイン以上に時間をかけて考えました。フォントの種類や大きさ、余白の取り方など、文芸書やエディトリアルデザインの教本を参考にしながら設定しました。
各章扉のシンプルな飾り枠は、参加してくださった作家様とのやりとりの中でアイディアをいただき入れたものです。アンソロジーの醍醐味が感じられた一幕でした。
【製本・その他】
総扉は特注で、用紙はクロマティコA‐FSレッドを用いています。憧れの紙だったので、取り寄せることができて嬉しかったです。総扉には金の箔押しで飾り枠を入れ、その奥にタイトルが透けて見えるようにしました。トレーシングペーパーに箔押しという繊細な加工が実現できて幸せでした!
黒い遊び紙はスタードリーム-FS チタンで、こちらはキャラクターがチタンと関連する鉱物であることに因んでいます(ほぼこじつけですが楽しい)。シブい輝きと手触りが最高です。前後2枚ずつ入れていますが、緑陽社のご担当者様が紙の裏表の配置まで確認してくださったのがとても印象的で、細やかな対応に感動しました。
今回のご本はどのようなスケジュールで進められましたか?
3月ごろ企画を練り始め、4月以降に作家様への原稿依頼、6〜7月に原稿受領、7月中には入稿という短期決戦でした。タイトなスケジュールになってしまい、参加してくださった作家様方には本当にご無理をおかけしました…。諸々決断し実行するのに時間が掛かってしまいましたが、関わってくださった皆様が温かく見守ってくださり、感謝しかありません。
緑陽社様にご相談したのは5月に入ってからだったと思います。最初にオンライン相談で使用できる加工の種類や予算などについて質問させていただき、そこから装丁のイメージを膨らませていきました。紙の取り寄せや納期など、ご担当者様に相談に乗っていただきながらデザインを進めました。
今回のご本のような装丁で同人誌を作ってみたい!とお考えの方に向けてメッセージをお願いします。
自分なりにではありますが、装丁にイメージを落とし込んでいく作業はとても楽しいものでした。こじつけでも何でも、好きなものの概念を自由に追い求めて形にしていく時間は本当に楽しい!
今回、紙選びにも熱中していたのですが、少しだけ紙フェチの沼に足を踏み入れることができたような気がします。紙の取り寄せに柔軟に対応していただいたので、思い描いた質感を実現できました。
アンソロジー制作、とても素晴らしい経験でした。これから作られる方にも推しのイメージ特盛で制作されることをおすすめしたいです!
最後にひとことお願いします!
本フェチ大賞の準大賞のお話をいただき、驚きつつも大変光栄で、心から嬉しく思います。本の制作時にも何度も歴代の受賞作品のページを拝見しては参考にしていたので、感慨もひとしおです。
そして今回のアンソロジーを実現できたのはひとえにご協力くださった方々のおかげです。
思い出に残る、手元にずっと置いておきたい本ができました。原作は完結してしまいましたが、大好きな作品と、この物語が結んでくれたさまざまな縁に感謝しています。最後まで手厚くサポートしてくださった緑陽社様、本当にありがとうございました!
Staff Comment
『星彩の輪舞』は、冊子を手の中で開き、ページをめくる度に鮮やかで繊細な世界が広がっていく万華鏡のような一冊です。OKムーンカラーの紙地の美しさを活かしたカバーには、傾けると輝きの変わるオーロラ箔のタイトルが揺らめき、裏側に施されたレーザーカットからは、鮮烈な表紙の赤色が見え隠れ、まさに夜ごとに表情を変える月のようです。
表紙とトレーシングペーパーの扉に施された贅沢な金箔、扉から透けて見える本文タイトルなど、細部にわたる演出が上品な高級感を生み出しています。
しかし、この作品の真骨頂は見た目だけではありません。本文の組版にも細やかな配慮がなされており、扉をめくると視線の移動なく自然に本文へ誘導される仕掛けは、読み手への深い思いやりを感じさせます。余裕をもった行間や文字サイズの絶妙なバランスが、読書体験を格段に向上させています。
紙・印刷・箔・組版のすべてが調和し、世界観を最大限に引き出した装丁へのこだわりは、本フェチの極みと言えるでしょう。
▼ 第14回 受賞作品 ▼
