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特別賞
「逃げ隠れて暮らす 前後編」
豆粉様[豆粉屋]

第14回特別賞

物語をそっと垣間見る…幕開けを感じさせるトムソン加工!

仕様
  逃げ隠れて暮らす[前編]
【表紙】 用紙:きほん紙 ビオトープGA-FS フォレストグリーン 170kg/印刷:1色刷り(シルバー)
加工:トムソン加工(オリジナル型)
口絵 マットコート 110kg/印刷:4色フルカラー
【本文】 用紙:コミックルンバ ブルー84kg/印刷:スミ刷り
【製本】 無線とじ
  逃げ隠れて暮らす[後編]
【表紙】 用紙:きほん紙 ビオトープGA-FS マロン 170kg/印刷:1色刷り(ゴールド赤口)
加工:トムソン加工(オリジナル型)
遊び紙 用紙:クラシコトレーシング 52kg 白
口絵 マットコート 110kg/印刷:4色フルカラー
【本文】 用紙:コミックルンバ クリーム84kg/印刷:スミ刷り
【製本】 無線とじ

Interview

豆粉様、今回のご本が生まれたきっかけは何でしょうか?

「いっそ二人でここで暮らそうか」というハンジさんのセリフは、リヴァハンで活動していくうちに細胞に染みついてしまうくらい馴染んでしまった言葉ですが、
もしもあの時、本当にそのルートに進んでいたら二人はどうなっただろう…という構想というか妄想を以前から積み重ねていて、
ただ、考えていくうちに(特に前編は)だいぶ地獄みたいな内容になりそうだったので、こんなしんどいものを描いて大丈夫かしらと躊躇していたのですが、作業通話仲間に「読みたい」と背中を押されて制作に至りました。

使用された紙・加工と、特にこだわりを持った部分があれば教えてください。

装丁のテーマは、装丁の時点から物語は始まっているというのがひとつ。
遠くから眺めていた二人の物語が、表紙をめくることで、近くの木や家の壁が取り払われて、色彩も鮮明になる…
演劇でいうなら近景のカキワリがはけて、物語に導入していくイメージで考えました。

もうひとつは、どちらも裏表紙にエレンが描かれているのですが、エレン視点からの二人、というイメージも込めています。
この物語を見ているけど内容に干渉ができないエレンの立場は、読者ともリンクしています。

紙や加工については、濃い色の紙に、紙より明るい色…特にメタリックな色での一色刷りで、明るい色の部分を印刷して濃い色の部分を抜くことで濃色部分を紙の色で見せるやり方をしてみたかったので、前編は濃緑(フォレストグリーン)にシルバー、後編は濃茶(マロン)にゴールド赤口という組み合わせにしました。

表紙と本文の紙の色は、本の内容と合わせて前編は森、後編は山小屋をイメージして選んでいます。

今回のご本はどのようなスケジュールで進められましたか?

まず、本文の大雑把なネームを作り、そこから表紙のトムソン加工での演出を構想した時点で大ラフを描いて、
緑陽社さんにこのデザインは可能かどうかと、発行したいイベントの日程とともに納期について相談させていただき、
出していただいた〆切を目安にスケジュールを立てて制作を始めました。

その際に、その時点でのデザインラフを使って実際に紙に穴を開けた場合のダミーを作って写真を添付してくださり「トムソン加工の形や長さが今のままだとめくった時に表紙が折れやすくなる」などわかりやすく丁寧な説明と共に具体的な対策についてまで教えてくださって感動しました。
そこからデザインを調整することができたので、大ラフの時点から加工の相談をして良かったなあと思います。

後編の時はそもそも複数の穴が可能なのかわからなかったのですが、ダメもとと思って聞いてみたら、可能とのことで嬉しかったです。加工について、私の本のコンセプトを汲んだ上で相談に乗ってくださったり提案をしていただいたりして本当にお世話になりました。

具体的なスケジュールについては、お恥ずかしながらあまり記憶になく…笑
本を描き上げるごとに記憶喪失になります…。

今回のご本のような装丁で同人誌を作ってみたい!とお考えの方に向けてメッセージをお願いします。

トムソン加工は、穴の空いた表紙と、それをめくった時で2度楽しめる構造で、私のようなカキワリ的な演出のほかにも様々な仕掛けが考えられる面白い加工でオススメです。

最後にひとことお願いします!

実を言うと、以前緑陽社さんで合同誌「うるおう ふたりは かわかない」を刷ったときにも、加工を相談していろいろ工夫をしたのに、本フェチ大賞にエントリーするのを忘れてしまい、「しまった〜!」と思っていたので、今回はエントリーできて、しかも特別賞をいただけるなんて…感無量です…!!

これまで本フェチ大賞の受賞作品を眺めてはみなさんのアイデアや情熱に感動を覚えていたので、本当に光栄に思います。

せっかく紙に刷って本にするなら、形になった時に何かしら紙ならではのことを楽しみたい…というこの欲を、刷り上がりを手に取った時の嬉しい記憶と共に今後も持ち続けることになりそうです。

この度は本当にありがとうございました!

Staff Comment

『逃げ隠れて暮らす(前後編)』は、装丁そのものが物語の一部となる稀有な作品です。
前編・後編を通して一貫して用いられたオリジナルトムソン加工は、ただの装飾ではなく、「覗き見る」という行為そのものを読者に体験させる仕掛けとなっています。

特に印象的なのは後編での工夫。窓枠と人物の間にトレペを挟むことで、窓ガラス越しに人物を見るという物理的な距離感が見事に表現されています。
読者はまるで誰かの生活を密かに覗き込むような、倫理的な緊張感すら覚える体験に導かれるのです。

また、用紙のヴィンテージ感を活かした1色刷りが、作品の世界観と見事に調和し、前編では森の中から、後編では家の中からと、タイトルの「逃げ隠れ」を視覚的に補完する構成も秀逸です。
演劇のワンシーンを切り取ったような印象を与え、読者がページを開く前から物語への没入が始まるこの作品は、読んだ人の心に深く残ることでしょう。

▼ 第14回 受賞作品 ▼


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